恋と愛とそれから彼と
私が住んでいる街は、都心部と言えば都心部だが、郊外と言えば郊外で、要するに中途半端な地域だ。
しかし、何かと揃っていて利便性は抜群。
駅こそ少し離れているものの、スーパーや商店街、レンタルビデオショップや総合病院等々、住み心地は最高である。
『いいね、商店街。』
「ハヤトは商店街とか似合わないよ」
『浮いてる?』
「浮いてる。」
目立つ服を着ているわけではない。ブイネックのロンティーにチノパンという、ありふれた格好で、しかし確かに浮いている。
店のおばさんは彼にだけにっこり微笑んだ。彼も同じように返す。
『アットホームな空気あるね』
「地元に根付いた商店街だもん」
『安くしてくれないかな、』
「ハヤトが頼めば持ってけドロボーでしょ、」
『俺、お金は払うよ。』
「冗談。」
もうすぐそこに終わりが見える。
大通りを挟んだ向こう側に大型スーパーがあるのだ。
横断歩道はボタン式だが、渡る人が多い為に、車は頻繁に信号に捕まるらしい。
これは先日、商店街のお兄さんが私に溢した愚痴なので事実だろう。
『お昼何がいい?』
「もう要らないよ」
『えー』
「えーじゃない。」
信号は赤。
彼はそれさえ楽しそうにしている。
横目でちらりと見ただけだが、十分にわかった。
『なに?』
「いや、別に‥‥」
『コイビトみたいだね。』
「は?」
『だからコイビト。』
「まさか、」
ははは、とわざとらしい笑い声を上げたのは私だった。
彼は真面目にそう言ったらしく、一瞬の笑顔も見せない。
そんな。私の受け止め方、間違っていましたか?