恋と愛とそれから彼と
彼がそんなことを言うものだから、周りの視線が気になり始める。
気になり始めたものの、スーパーのエスカレーターの両脇に貼り付けられている鏡を、自ら見て確認する気にはなれなかった。恐れ多い。
『ナオ、』
「ん?」
『そう言えば高校時代に似たようなこと、あったよね?』
「あったっけ?」
『文化祭の買い出し。』
「ああ!」
『ナオが途中で消えたんだよ』
「違う。ハヤトが消えて、私が探したの。」
エスカレーターを下りる。
衣服売り場の階だった。
カゴも持たずに歩き始めた為、私は急いでカゴを取り、小走りで彼に追い付く。
『ああ、ごめん。ありがとう。』
「いや、いいけど‥」
『さっきの消えたナオの話だけどさ、』
「だからハヤトが‥‥」
『やっぱり消えたのはナオだよ。』
私からすっとカゴを奪う。
カゴを持った彼は似合わなくて面白い。
『だって、ナオが俺を探しに動いたから俺はナオを探したんだもん。』
「そうだっけ?」
『そう。俺は案外近くに居たんだよ。』
「と、いうことで、」と、声のトーンを上げた。
横を通り過ぎていく高校生と思わしき女の子が、彼をちらりと一瞥し、隣に居た友人の肩を叩いたところまでが視界の隅に入ってきた。
今日はなん曜日だったかな?
あ、そうか、祝日だ。
「と、いうことで‥‥?」
『そこに座って待ってて。』
「え?」
『俺はパンツを買うから。』
「あ、はい。待ってます。」
パンツを強調しなくても。