恋と愛とそれから彼と




彼が指差したベンチに腰を下ろして早数十分。

先日スマートフォンにインストールしたクロスワードをやっていたが、タテの7で躓いた。

暫くは考えていたが、思い出せない言葉ならともかく、私の知らない言葉かもわからない。


そうして視線を店内へと戻す。
しかし男性下着売り場には彼の姿がない。





「置いていかれた‥‥」





声を掛けてくれても良かったのに。そりゃクロスワードに夢中になっていたけれど、声に無反応で返すことはないのだから。


辺りを見回す。
子ども服売り場が目に留まった。

友人の子どもが今年小学生になると先日言っていたのを思い出す。19歳の時に、できちゃった結婚をした私の友人だ。


私はベンチから立ち上がり、なんとなしに子ども服売り場へと足を延ばす。





「(財布持ってないじゃん‥‥)」





それにサイズもわからない。
ご丁寧にもパネルに目安サイズを表記してくれているのだが、やはり確認してからの方がいいだろう。

それに今は無一文。
給料日前でもあるからいけない。





「(‥‥可愛いのに、これ)」





溜め息と同時に洋服を戻し、また物色し始める。

と、その時。





『ナオ!』





彼が私を呼び、ずんずん歩いて来る。何をそんなに怒っているのかわからず、いや、怒っていないかもしれないが。

とにかく、足が長い分、一歩が大きい。





『なにしてんの‥‥』

「え?子ども服‥‥」

『一言言って。』

「見当たらなかったから‥」

『こっちの台詞。』





はぁ、と盛大な溜め息。
そして「大人の迷子なんて笑えないよ」と、眉尻を下げた。
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