マンホール


立ち止まった。というと、自分の意思のように聞こえる。

じゃ、語弊があった。


立ち止まってしまった。だろうか。



足が動かない。
靴の裏が、粘着性に優れたガムを踏んだように。動きそうで動かない。この場合の動きそうは、頭で、動かないは、体。

いくら頭で進もうとしても、足が断固としてそれを許さなかった。



大騎が振り返る。

手に握られている懐中電灯は、もう用無しだった。暗闇の中で、互いの表情が見て取れる。振り返った大騎の、遥か後方、即ち、僕のずっと前方から、光が差し込んでいた。


出口かな?

そう思ったけれど、足が、頭が、そうじゃないと言っていた。


一筋の光。

太陽。


僕は咄嗟にそう思った。
今や光は、幾つにも分裂し、互いに折り重なり、わさわさと動いている。蠢いている。だから太陽だと思った。静電気のような痺れも感じるし。


あれが、大騎の言っていた秘密?

首を傾げて問うたが、僕を見る大騎の顔は、信じられないくらい、無表情だった。



< 10 / 30 >

この作品をシェア

pagetop