マンホール
「優(まさる)」
ゆっくりと、大騎が手を差し出す。
「一緒に、向こうに行かないか?」
「…向、こう?」
「向こう側に」
瞬きもせずに僕を見つめる大騎は、やはり無表情だ。いつも豪快に笑っている大騎じゃない。ひょっとしたら…いつもの笑顔が、作られたもの?
それでも僕は、無意識なのか、手を差し出す。大騎の声に、金縛りが少しだけ解けた隙に、手を掴み…。
「っ‼」
光が、すぐ目の前までやってきていた。
目玉。
大きな目ん玉だと思った。
丸い光の渦は、粒子を飛び散らせながら、宙を漂う。
動けない。
動けない。
このまま光に呑まれ、動けない、身を焼かれ、動けない、魂を焦がし、動きたくない、光の一部として、それもいい、光となって…。
「さぁ、行こう」
手首を掴もうとする大騎の手が触れた瞬間、呪縛が解けた。
「ああぁぁ‼」
僕は声を張り上げ、一目散に逃げ出した。背中が痛い。焼け焦げる、背中が、焼き殺される‼
一度も振り返ることなく、錆びた梯子を引っ掴み、僕はマンホールから飛び出した。
僕は。
大騎から逃げ出した…。