マンホール
大騎が消えた。
母から、よそ事のように聞かされたのは、高校2年になったばかりの春だった。母は付け加えるように「そういや昔、仲が良かったわよね?」
「ああ」
適当に返事をし、コンビニに行くと適当に言い、適当な格好で家を出た。
瞬間。
僕は駆け出した。
其処には、適当さの欠片もない。明確な目的と目的地があった。久しぶりだ。こんなにも、明らかなのは。久しぶりだ。こんなに走るのは。
大騎は、昨夜、居なくなった。
今じゃない。だから間に合わないかもしれないという思いより、突き付けられた距離に、足取りが重たくなる。
順番は最後、しかも母が仕入れてきた噂話の一つであり、僕自身のもとに、大騎の所在を問う連絡はない。
それだけ、僕たちは離れてしまった。
静と動は、肩を寄せ合うことはない。
それぞれが、それぞれのテリトリーを広げ、それぞれの道を行く。顔を合わせれば軽く手を上げるし、少なくとも僕は、友達だと思っていた。軽く手を上げるだけの、友達。
きっと大騎は、彼処に違いない。
問題は、7年も前、一度っきりのあの場所へ、たどり着けるのか。
薄い、ともすれば塗り替えられた記憶を頼りに、大きな体で、小さな自分の影を追った。
フワリ。
其処に、桜が咲いていた。