マンホール
満開の桜と、大きくなった大騎と、足元には。
マンホール。
「大ちゃん、何処行くの?」
どこか別のところから、自分の声が聞こえてくるようで、その声は震えておらず、震えているのは心なのだと知った。
大ちゃん。
中学に上がると、呼ぶのが恥ずかしくなったから、かなりのレアものだ。
大騎は、カバン一つ持ってなかった。
ただ険しい顔をして、僕を睨みつける。
「ねぇ、大ちゃん……」
「優(まさる)、よく来れたな」
観念したように、体から力が抜けた。
「俺、行くよ」
「だから何処に?」
分かっていた。何処に行くのか、何処へ行きたいのか。
「行かなきゃいけないんだ」
「なんで?」
「行かなきゃ、いけない…」
そう言うと、足元を見下ろす。
マンホールの蓋が、かすかに揺れていた。今にも、なにかが飛び出してきそうで、それを大騎が、足で抑えつけているようで。
「じゃあな、優」