マンホール


「ほら美紀、桜、綺麗だよ」

ひょいと担ぎ直し、桜を指さす。


胸を締め付けを、気づかないフリをして。



「綺麗‼桜、綺麗‼」

4歳の美紀は、同じ年頃の子にしては、自然を愛でる感性と、色に反応する。絵を描かせれば、とても4歳とは思えぬ色使いと大胆な筆使いで、余生は左うちわと和子と笑いあう。


そんな細やかな幸せに、胸の痛みなど不必要だ。



この時点で、美紀が何を言ったのか、耳では聞いていたが、脳が拒絶した。けれど、耳から入った単語が、血流を早める。


「桜の絵を描こうか?」

「桜ー‼」


頭の上で暴れていた娘は、やがて足をバタつかせ、指をさす。

地面に。


桜は上だ。そんな真下じゃないのに…。



美紀は言った。

今度ははっきりと。



「マンホール‼」



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