マンホール
突然、風が吹き荒れた。渦を成し、懸命に枝にしがみつく、桜の花びらを、無情にも巻き込んでいく。
目が霞むのは、砂埃か、花の粉な、はたまた涙の類いだろうか。美紀が地面に屈み、土の中に手を突っ込むのが、断片的に見えた。
「美紀‼」
声を張り上げるが、美紀は顔を上げもせず、力んでいる。
持ち上げようとしているのだろう。
マンホールの蓋を。
美紀にしな見えない、かつては僕にも見えたマンホール。和子にも見えない特別な世界への入り口が、美紀を迎え入れようとしている。
膝から力が抜ける。
ここは実家ではない。僕と大騎が育ち、大騎が姿を消した、あの実家からは遠くかけ離れている。
河原の桜も、記憶していた、雄大な桜とは重ならない。それなのに別世界への扉は、こうして美紀の元にやってきた。
ムダなのだ。
逃げても逃げても、美紀が美紀である以上、それは追いかけてくる。
それならば。
それならば。
僕は大きく息を吸い込み、
「美紀‼やめるんだ‼」