マンホール
見る見るうちに、美紀の目に涙がたまり、溢れ、零れていった。大声を出して叱ったのは、初めてのこと。驚くのも仕方がない。
泣き声を上げて走ってくる。
僕は抱きしめようと膝をついたが、美紀は、脇を通り越していった。その先に、困った顔をした和子が両手を広げている。
母の胸に飛び込む、娘。
ちょっと悔しい気もしたが、和子がしっかり抱きかかえ、指で向こうに行くからと、微笑んだ。和子なら安心だ。良い母親だし。
僕は二人が消えるまで、母子の背中を見送った。
また、強い風が吹いた。
きっと。
きっと。
大騎なんだろう。
きっと。
大騎は寂しいんじゃないか。今までずっと、1人で過ごしてきたんじゃないか。
そうだろ?大騎。
でもお願いだから、美紀はやめてくれ。いくら寂しいからって、それはないよな?僕と君の仲じゃないか。僕が代わりに、そっちに行くから。
僕にもまた、見えるかな?
見えるよな?
大騎。
君に会いたいよ。