マンホール
校庭に足を踏み入れた途端、息が詰まる思いがした。
甲高い喧騒と、立ち込める砂埃、様々な球が目の前を行き来し、僕は忙しなく視線を泳がせ、血眼になってクラスメイトを、川村大騎を探した。
此処は、僕の居る場所じゃない。
僕は太っているわけでも、運動が苦手なわけでも、まして足は速いほうだし、小5にしては背も高い。けれど此処に、僕の居場所はない。
球を追い、互いを追い、目に見えぬ宝物を追う同級生たちに、なぜか畏怖を覚えた。向こうからしてみたら、ifじゃなく、畏怖なんて言葉を知っている僕こそモンスターだろうけれど。
「優‼こっち‼」
声ははっきりと聞こえた。
姿は見えないというのに。
「優‼」
家族しか呼ばない下の名前。僕は必死に声を辿った。もう後戻りはできない。声を掴まなければ、恐怖に飲み込まれる。
声を掴まなければ、二度と戻れない。
よほど切迫詰まっていたのだろう。
コートに入ると、みんなが驚いて僕を見ていた。いや、僕だけがそう思っただけで、涼しい顔をしていた僕(井上)がやってきたことに、驚いただけ。
真実と現実。
真と現(うつつ)は、時として全く別の実をうむ。
ドッジボール大の、丸い実を。