マンホール


ドッジボールは醜い。

読んで字のごとく、酒を飲んだ鬼が、憎悪を込めて仇に球を投げる。顔を歪ませ、唾を撒き散らし、声にならない声とともに。



僕には、得体の知れぬ憎しみを、体で受け取めるガッツはない。


煮えたぎる怒りを、脇に避けることはできる。避けて避けて、いつしか仲間は大騎のみ。大騎は、怨念のこもった球を全身で包み込んでいたが、右肩が球を弾いた。


気がつくと、目の前は土。

顎をしこたま打ったが、両手で掴んだボールは、地面より数センチ浮き上がっており、クラスメイトから、響き(どよめき)が起きた。



「優‼助かったぜ‼」


大騎に引き起こされ、ボールを手渡す。

憎しみも悪も怒りも、なにも感じられない、ただのボール。


この日から僕は。

井上じゃなくなった。



この日から僕は。

優となった。



< 6 / 30 >

この作品をシェア

pagetop