マンホール
ドッジボールは醜い。
読んで字のごとく、酒を飲んだ鬼が、憎悪を込めて仇に球を投げる。顔を歪ませ、唾を撒き散らし、声にならない声とともに。
僕には、得体の知れぬ憎しみを、体で受け取めるガッツはない。
煮えたぎる怒りを、脇に避けることはできる。避けて避けて、いつしか仲間は大騎のみ。大騎は、怨念のこもった球を全身で包み込んでいたが、右肩が球を弾いた。
気がつくと、目の前は土。
顎をしこたま打ったが、両手で掴んだボールは、地面より数センチ浮き上がっており、クラスメイトから、響き(どよめき)が起きた。
「優‼助かったぜ‼」
大騎に引き起こされ、ボールを手渡す。
憎しみも悪も怒りも、なにも感じられない、ただのボール。
この日から僕は。
井上じゃなくなった。
この日から僕は。
優となった。