マンホール


桜。

淡い色を成した桜が、空に伸びている。


満開に咲き誇った桜。

大きな空き地にポツンと成っていた。地面に根をはり、歪(いびつ)に広がる桜の木を見上げる。



なんて綺麗なんだろう。


蒼い空とのバランスがまた、なんて綺麗なんだろう。

桜に見惚れるなんてことは初めてで、僕はずっと見ていた。


「優‼」


トゲのある大騎の声で、我に返るまでずっと。

やっと視線を下ろすと、少し膨れっ面をした大騎が。桜に焼き餅を焼いたのか、足を二度、蹴った。俺が打ち明けたいのはそれじゃなく、此れだ‼と。


「…マンホール?」

僕は首を傾げた。



すると、大騎は笑った。さっきまでの不貞腐れた顔が、一瞬にして消え去り、こう言ったんだ。

「やっぱ、優には見えるんだな」


嬉しそうに。

本当に嬉しそうに、大騎は、マンホールの蓋を開けた。



突然、風が吹いた。


桜の花びらが、マンホールの中に吸い込まれていく。

綺麗。


「優‼」


大騎に手招きされ、僕は花びらの中に向かった。




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