マンホール
錆び臭い。
欲望の入り混じった下水は、意外にも鼻を突かない。それよりも、梯子の冷たさで、体の芯まで凍りそうだ。梯子の錆びに触れることで、下まで着いたら、ブリキになっているんじゃないかと疑うくらいに。
「あっちだ」
紛れもない人間である大騎は、懐中電灯で中を照らす。
なんの変哲もない、ただの暗がり。
もっとこう、歩くより早く水が流れ、脇の通路をひた走ると、突き当たりは鉄格子で、その先にダムが待ち構えていて。
「ずっと真っ直ぐなんだ」
そう。
真っ直ぐ。
ただ歩くだけ。
少し早足かもしれない。
半径1.5mの丸い道。中央に流れる水路は、申し訳なさそうな20cm幅だ。馬鹿でかいネズミが横切るでも、蝙蝠(こうもり)が襲いかかるでもない。
一体、この先になにがあるというのだろう。
大騎のいう秘密ってなんだろう?
秘密基地の類いだろうか。こんな湿気った地底、大騎には似つかわしくない。大騎は太陽みたいな存在だ。
明るくて眩しい。
目を閉じたくなるくらい、閉じても閉じてもその熱は消えない。火であり炎であり、光であり、輝きである。それが僕の、僕たちの大騎だ。
「ほら、見えた」
大騎がそう言った時、僕は立ち止まった。