シュガーレスキス
「まあ、僕を殴るなり何なりすればいいですよ。関係なく後藤さんには接近させてもらいますから」
「……その綺麗な顔を傷つけるのは俺も気がとがめるよ。悪いが、菜恵はお前なんかには絶対なびかない。絶対だ」

 根拠無く俺はこんな断言をしていた。
 キスマークの事は相当頭にきていたけれど、今は八木から菜恵を守る方が先決だというのが分かった。
 もうくだらない事で怒っている場合じゃない。

「そういう自信過剰が悲劇を招くんですよ?まあ、僕はこういう気持ちなので。後藤さんを失ってもあなたには文句を言う資格無いですからね」

 そう言い残し、八木はさっさと階段を降りて行ってしまった。

 ……菜恵。
 八木の強引さから行けば、菜恵の心が揺らがないという保障は無い。

 俺は猛烈に不安になった。
 最近体調の悪そうな彼女を見ているのも結構つらくて、変な意地を張ってる場合じゃないというのが分かり、俺はその夜菜恵のアパートを訪ねる事にした。
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