シュガーレスキス
 1ヶ月以上もほとんど会ってなくて、お互い寂しい気持ちが限界になっていた。
 私は彼がちゃんと自分の事を見ていてくれたのが分かって、ホッとしたと同時に涙が出た。

「菜恵が泣いたら俺がなぐさめる役になるだろ?本当はなぐさめて欲しいのは俺の方なんだからな」

 そう言って、聡彦は優しく私を胸に抱き入れてくれた。

「ごめんね……」
「俺も悪かったよ。今回の事はお互い無しって事で流すのがいいと思ってさ……」

 まだ鬼のように怒ってるかと思ったのに、聡彦は全くそういう気配を感じさせなかった。

「もう……、大事な人をなくしたくない」

 私を抱きしめる腕に力が入る。

「聡彦……大事な人……って誰?」

 彼はそれ以上何も言わないで、黙って私を抱きしめていた。

 大事な人をなくしたなんて……初耳だ。
 家族とか……身近な人の事なんだろうか。それとも恋人?
 彼は自分の家族についてあまり語りたがらない。
 弟さんが一人いるのは聞いた事があるけど、ご両親については何も言わない。
 
 でも今、それを聞くのはためらわれる。
< 108 / 281 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop