シュガーレスキス
 やっぱり相当高い熱が上がっている。
 傍に寄ってみると、息も上がっていて相当つらそうだ。
 最初に声をかけてきた時は全然そんなの感じさせなかったのに……八木さんて本当に読めない人だ。

「後藤さんさ……」

 私の肩に頭をもたげていた八木さんがボソッと口を開いた。

「はい?」
「僕の事、嫌いだと思うけど。僕は……君をいいなって思ってる。舘さんにライバル心があるのも否定できないけど、なんか……君といるとホッとする」
「……」

 こういう状況で、優しい言葉を言われると私も強く否定できない。
 実際、体力も弱っている八木さんは放っておけない雰囲気になっていて、私は黙って彼の枕がわりになっていた。
 暖房のスイッチも切れたみたいで、エレベータ内は相当寒くなっていた。

「今だけ。今だけ抱きしめていいかな」

 そう言われ、私はふいに彼の胸に抱きしめられた。

 一瞬の出来事だったから、私も何が起こったのか分からなくて、自分が八木さんの胸の中にいるのを理解するまでに数秒かかった。

「何するんですか」
「ごめん……僕はこういう強引な男なんだ。一度好きになると、盲目的になる。だから本気で好きになった女性には振られてばかりさ。後藤さんにも好かれてないって分かってるのに……こういう事が平気で出来てしまう男なんだ」

 体力を失っているように見えた八木さんの強い力で私の体は固定されてしまい、近づけられた顔もよける事ができなかった。
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