シュガーレスキス
 キス?

 唇の感触がヒンヤリとして、そのまま何度か頬にもキスをされた。

「やだ!またこういう事するなんて。止めてください!」

 私が思い切り彼の体を突き離すと、八木さんはその勢いでパタリと床に倒れてしまった。
 嘘……私なんかの力で彼が倒れるとは思わなかったから、慌てた。
 気絶したみたいに動かない八木さんの体を起き上がらせて、仕方なく彼の頭を自分の膝にのせてエレベータが開くのを待った。

 多分扉が開くまで15分もかかってなかったはずだったけれど、私にはすごく長い時間に感じられた。
 強引な事をされたけれど、グッタリしている彼を責める気にもなれなくて、今起こった事は忘れてしまおうと思っていた。

――― 10分後

 ようやくエレベータが正常に動いて階段ならほんの1分ほどの3階のフロアが見えた。

「大丈夫でしたか?」

 作業服を着た男性が私とぐったりした八木さんを見て心配そうに手を差しのべてくれた。

「私は平気です。一緒にいた方が、体調悪かったみたいで」

 野次馬がエレベータの周囲にはたくさん集まっていて、私の膝の上で八木さんが倒れているのを思いっきり見られた。
 何も関係無いとかいう言い訳が出来ない状態で、女性職員は明らかな疑惑の目を向けていた。
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