シュガーレスキス
 どうしようもない。
 八木さんが気を失うほど具合が悪そうなのは事実だし、あの状況だったら誰だって似た事になっていたに違いない。

 即座に八木さんは作業員に抱えられるようにして立ち上げられ、そのまま医務室に連れて行かれた。

 私は今更食堂に入る気にもなれなくて、好奇の目を向けられたまま階段を降りた。

 この日からだ……。
 私への容赦無い噂が立った。

“舘さんと付き合ってるくせに、八木さんとも深い仲らしい”
“大人しそうに見えて、男好き”
“いい男を狙う小悪魔”

 資料館にいても、社員さんの目がどことなく冷やかしている感じがして、私はいたたまれなくなった。

「菜恵、気にする事無いよ。舘さんにだけは誤解を解いた方がいいけど、私はあんな噂信じて無いし。八木さんがいい男だから、嫉妬されてるだけだからね」

 沙紀がそう言って慰めてくれた。

 そう、私も聡彦にさえ誤解されてなければそれでいいと思っていた。
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