シュガーレスキス
「か……課長は、美人だし。仕事出来ますし……僕なんかが声をかけられる人じゃないと思ったんですよ」
これは本心だ。
30を過ぎてようが、課長は女のレベルとしては相当高い。
だから誰も声をかけられない。
こんなに美人で有能な女性を口説こうなんて思う勇気のある男がいないだけだ。
「本音を言うわ。私……ずっと八木くんが好きだったの。ちょっとうっとおしいぐらいあなたには色々言ってきたと思うけど。あれは全部好意の裏返し……ごめんね」
僕にしがみついていた手をふっと緩めて、彼女は寂しそうに俯いた。
「何で、僕なんか?今までそんな雰囲気見せなかったじゃないですか」
「あなたと同じ。好きな人には不器用なの」
課長の弱った姿は、さっきまで僕の方が弱いだろうと思われていた状態よりずっと心細く見えた。
女性をこんなふうに守ってあげたいと思ったのは初めてで。
今までは年下でも好きな女の子とはベッタリしていたいと思っていたけど、何故か目の前の年上の女性には「……一緒にいてあげるよ」って言いたくなった。
「あなたの事、全部包んであげる……だから、他の女性を忘れて私の事も包んでくれない?」
捨て身のように、僕の胸に飛び込んできた課長を僕はとっさに抱きしめた。