シュガーレスキス
「横暴な聡彦がまた顔を出したね。嫌い……そういうあなた」

 私はもうあまり遠慮なくこういう言葉が出るようになっていた。
 我慢して振り回されても疲れるだけだし、なるべく早めに膿は出してしまった方がいいだろうと思っていたから。

「俺だって営業になってから、やたら愛想笑いが身についてる菜恵なんか嫌いだ」
「いつ愛想笑いしたのよ!?」

 受付にいた時はもっと頑張って笑っていた。
 この言い方はあんまりだ、私は日々新しい仕事に慣れようと必死なのに。

「いつも如月の前で俺に見せないような照れ笑い見せてるだろ!?」
「してない!聡彦の方が沢村さんに熱心過ぎるんじゃないの?」

 こんな感じで、私達は最悪な喧嘩をしてしまった。
 めずらしく布団も別々に敷いて、お互いそっぽを向いたまま寝た。

 恋は油断したら足元から崩れる事もある。
 確実なものなんか何も無い。

 砂の城みたいに、とても脆いものだ……という事を、私は忘れていた。
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