シュガーレスキス
 私は彼の恋愛論に反論する事が出来なかった。
 表に見えている彼は、強引で俺様で……最悪に自分勝手な気がしていたけれど、真面 目に心の奥を語る彼はそれとは逆の姿を持っていて。
 驚くと供に……やっぱり少し心を揺らされる。

 何となく心細くなり、私は聡彦に会いたくなっていた。
 今彼の顔を見ないと、自分の心が揺れてしまいそうで怖かったのだ。

 私は意地張るのを止め、聡彦の携帯に電話をした。
 もう仕事が終わって、あっちのアパートに戻ってる頃だろうか……。

『菜恵?』

 想像していたより、ずっと優しい声で聡彦は電話に出た。

「あ、ごめんね。突然。今大丈夫?」
『実は今菜恵のアパートに向かって歩いてるとこ』
「え?」
『…………1週間菜恵の温もりが無い状態で寝る夜って、最悪だった』

 素直じゃない彼は、「菜恵がいなくて寂しかった」という言い方はしない。
 照れ隠しに、少しだけ意地悪な言葉を混ぜたりする。

『菜恵がそろそろ泣いてるんじゃないかって思ってさ』
「……そうだね、寂しくて泣きそうだよ」

 私は素直に自分の心を伝えた。
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