シュガーレスキス
「ただいま……」

 照れくさそうな顔で、彼はそれだけ言った。

「おかえりなさい」

 私も余計な言葉は言わず、聡彦の肩に両腕をまわしてギュッとそのまま彼の体を抱きしめた。
 同じように、彼も私の体が折れるかと思うほど強く抱きしめてくれ、お互いの心がまだしっかり繋がっていたいと望んでいたのを確認した。

 仕事の事もパートナーの事もこの日は何も語らず、私は聡彦の事だけを考え、彼は私の事で頭がいっぱいだなっていうのが分かる様子で抱き合った。
 あんなに怖くて、全く受け入れられなかった彼の最終的な愛。
 何故かこの日は何も構える事無く、自然な流れで受け入れる事が出来た。

 いつもよりかなり感度が増した私の体は、聡彦を受け入れるのに十分な状態になっていた。
 恥ずかしい気持ちより、彼を精一杯感じていたいという欲求の方が強かったのかもしれない。

「菜恵、すごく濡れてる」

 聡彦の言葉で、余計体が熱くなる。

「言わないでよ」
「だって、菜恵が俺にそういう気持ちになってくれてるって分かって嬉しいから」

 そう言って、聡彦の繊細な指先と暖かい唇が私の体から力を奪う。

「菜恵……」
「うん、大丈夫だよ」

ほとんどアイコンタクトだけで、“その時”を私は承諾した。
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