シュガーレスキス
 次の日、太陽の光が窓から差し込むと同時に私は目が覚めた。
 握っていた聡彦の手は暖かく、ただ普通に眠っているだけのように見える。

「聡彦」

 声をかけてみる。

「おはよう、朝だよ。随分長く寝てるね」

 いつも通りのセリフを言うと、聡彦の手が少し動いた気がした。

「聡彦!?」

 反応した事に驚いて、私は大きな声で彼を呼んでしまった。
 動かしては駄目だと言われていたのに、軽く手をゆさぶってしまうほど私は我を忘れていた。
 聡彦はその振動で、軽く目をしばたいて、やがてパッチリと目を開けた。

「聡彦!気が付いたんだね、良かった」

 涙ながらにそう言って彼の顔を覗きこむと、聡彦は私を見て不思議そうな顔をした。

「……後藤さん?」
「聡彦?」

 彼の様子がおかしい。
 私の事を認識はしているようだけど、「後藤さん」という呼び方をした事は今まで無くて、付き合い当初から彼は私を「菜恵」と呼び捨てにしていた。

「どうしたの?私だよ?」
「うん、どうして後藤さんが?俺……何で病院にいるの」

 聡彦は完全に私と付き合っていた事を忘れていた。
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