シュガーレスキス
「後藤さんは、資料館に新しく入った方ですよね?」
「それは数年前の事で……今は広報営業にいるんです」
「そうですか。じゃあ、俺はその2・3年間の人間関係を覚えてないって事になるんですね」

 あまりにもつらい展開に、私はその場で泣きたくなったけれど……記憶が無いという彼の事をこれ以上困らせても仕方ないと思い、アパートにタクシーが着いたらそのまま彼を降ろして自分のアパートに向かってもらった。

“明日俺が死んだら……”

 あんな冗談言うから、こんな最悪な事になってしまったのよ。

 聡彦の馬鹿。
 そうなじってみるけど、タクシーの中で涙が出て止まらなくなった。

 どうしよう。
 聡彦は私を忘れてしまった。
 あんなに元気だし、記憶が一部欠損した以外は全く問題が無い。
 まるで……私との付き合いをリセットするかのように、彼は私を記憶から遠ざけてしまった。

 携帯に一晩心配したらしい沢村さんからの電話が入った。
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