シュガーレスキス
「ご両親には連絡したの?」
「本人が。朝直接電話してました。心配ないって」
「そう……。まあ、大事に至らなくて良かったよ。記憶はまたどこかで繋がる可能性もあるし、だいたいあの男が一度記憶を失ったぐらいで後藤さんから心が離れるなんてあり得ない気がするけどね」

 本当に私を励まそうとしてくれている如月さんの言葉は、とてもありがたかった。

「あの。少し、泣いていいですか」

 運転する如月さんの横で、私はぐったり俯いてそう言った。

「いいよ。車の中だし……全く問題ないよ」
「ありがとうございます」

 それだけ言って、私は本当に恥ずかしいほどに号泣してしまった。

 どうして……なんで私を忘れてしまうのよ。
 昨日までキスしていた相手を、どうして忘れちゃうのよ!

 ショックとか悲しさとか怒りとか……とにかく色々な心がごちゃまぜになって私の口から吐き出されそうになっていた。
 実際軽く吐き気がして、何度か如月さんに車を止めてもらい、お手洗いに駆け込んだ。

「……後藤さん、今日はもう休んだら?」

 ハアハアと肩で息をする私の背中をさすってくれながら、如月さんがそう言った。
 きっと見ていられないほど私の様子がおかしかったんだと思う。
< 186 / 281 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop