シュガーレスキス
 記憶が戻るよう辛抱強く待つ事だって出来たんだけど、私の体が今それを許さない。
 子供は成長を止めてはくれないし、そんな大事な命をどうするかの決断も私は数日内には決めなくてはいけない。
 迷えば迷うほど負担は大きくなるばかりなのだ。

 携帯を切って、すっかり食欲の無くなったお腹を軽くさする。
 あの人の子が宿ってると思えば愛しいのは当たり前だ。

 産んでやりたい。

 でも、その為には記憶を失った彼の認知が必要になる。
 まさか父親が明らかに分かっているのに、シングルマザーになるほど私も覚悟は出来ていない。



「もう1週間だ。どこか病気なんじゃないのか?」

 如月さんがいい加減呆れている。
 私が青い顔でトイレに駆け込むのを見るのはこれで何回目か。
 まだ2ヶ月だっていうのに、体の反応が早すぎて私も戸惑う。

「すみません」

 車に戻って、炭酸水を口に入れる。
 食べるものは駄目だけど、薄くライム味のついた炭酸水だけなら飲めた。
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