シュガーレスキス
「知ってるの、あの人は」

 あの人というのは……聡彦の事だろう。

「いえ……とても言えません。記憶が無い事だけでも相当動揺させてるみたいだし」
「でも相手は明らかに彼なんだろ?」
「……はい」

 車内に、何とも言葉に出来ないムードが漂った。
 如月さんもさすがに言葉が出ないみたいで、軽くため息をついて外の景色を見ている。
 誰にも……沙紀にすら私はこの事を内緒にしていて、絶対誰にも言わずにおこうと思っていた。
 相談したって答えが出る問題でも無いし……相談された相手の荷が重すぎる。

 なのに、私は如月さんにその重荷を少し背負わせてしまった。

「まさかと思うけど。産もうとか思ってないよね?」
「え?」

 それは、この小さな命を消す覚悟の事を言ってるんだろうか。
 私は如月さんの言葉で、とたんにパニックになった。

「後藤さん!」

 号泣しはじめた私の肩を抱いて、如月さんが驚いて言葉を続けるのを止めた。

「ごめん、すごくデリケートな問題をあっさり口にしてしまった」

 泣き続ける私の頭を撫でて、必死に彼は心を落ち着けさせようと励ましてくれた。
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