シュガーレスキス
 聡彦に事実を告げる……。
 でも、私への思いを忘れた彼にこの事を告げ、ショックを受ける姿を私は見たくない。
 記憶を取り戻した聡彦以外、今の私を救ってくれる人はいない気がして……。
 そういう微妙な心を如月さんは分かってくれるだろうか。

「あの人を信じてるなら……告げるべきだよ」

 この言葉は結構重かった。
 私を愛してくれた聡彦は、間違いなく私との子供が出来たら飛び上がって喜んだだろうと想像できる。
 彼は記憶を失ったとはいえ、事実を突きつけられたら逃げようとはしないタイプだ。
 きっと私を受け入れ、子供をも受け入れようとするだろう。
 それが分かっているだけに、私は事実を告げられないでいるのだ。

「俺ももう少し考えてみる。とりあえず事情は分かって良かったよ……体は命に関わる問題なんだから……もっと大事にしろよ?」

「はい……ありがとうございます」

 ぶっきらぼうだけど、私を本当に心配してくれている様子の如月さんの言葉に、私はまた少し泣きそうになっていた。

 聡彦……。
 あなたと会わなくなってまだほんの少ししか時間が過ぎて無いのに、もう何年も会ってないような気持ちになる。

 会いたい……あなたの笑顔が見たい。

 「菜恵」って呼んでくれるあなたの声が…………聞きたい。
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