シュガーレスキス
「言わなかったの」

 営業車の中で、私はまた如月さんの横で落ち込んでいた。
 彼が強引に聡彦に会って事実を言うように助言してくれたから、私は彼と会う決心をしたのに……結局全く逆の結論を持って帰ってきてしまった。

「言えませんでした」
「どうすんの」
「分かりません……どうしたらいいか、分かりません!」

 如月さんに当たっても仕方無いのに、私はどこにもぶつけようのない気持ちを吐き出してしまう。
 彼だって限界のある普通の人間なのに、何故かどこまでも深い懐を持っているような気がして甘えてしまう。

「俺は?」

 唐突に彼はそう言って、私を見た。

「……え?」
「俺と一緒にならない?子供も俺の子って事にしてもいいよ」

 彼の言っている意味が分からなくて、私は瞬きするのも忘れてじっと動きを止めた。

 如月さん……何言ってるの?
 俺と一緒にならない……って。プロポーズしてるの?
 しかも、聡彦の子供だと分かっているお腹の子を、自分の子供として産んでいいって言ってるの?

「馬鹿な事言わないでくださいよ。如月さんには、ちゃんと別のいいお相手がいますよ」

 私は慌てて彼の提案を退けた。

「俺、馬鹿だから。あんまり問題を難しく考えるの嫌いなんだ。惚れた女を助けたい。その女の子供だったら……俺の子供だ。そういう理屈もあるっていうことさ」
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