シュガーレスキス
「一緒に付き添ってらした男性は、気付いたら連絡をって言って仕事に戻られました」
「そうですか」
「あ、そうそう。あなた運がいいわよ。流産寸前だったのに、奇跡的に赤ちゃんはまだ子宮に留まってくれてたみたいで。生命力強い子ね……きっと丈夫に育つわ」

 川村さんは明るい笑顔でハッキリとそう言った。

「本当ですか?」

 真っ暗な心の闇の中に、眩しい光がパアッと差し込んだのが分かった。

「ええ。本当よ」
「助かったんですか!?赤ちゃん……生きてるんですか?」

 泣きながらそう叫んだ私の背中を優しくさすり、川村さんは落ち着くように私の症状を丁寧に説明してくれた。
 数週間ほど入院が必要で、あとは家で安静にした方がいいとの事だった。

「安定期に入るまでは気をつけた方がいいわよ。仕事は……お休みした方がいいわね」
「そうですか。分かりました……」

 一人じゃない。
 お腹の赤ちゃんが私にパワーをくれた。

 こんなに頑張って残ってくれた命だもの。
 絶対一人ででも産んで育てよう。

 私の決意は固まった。
 もちろん如月さんの申し出は嬉しかったけれど……やはり、子どもの為とはいえ、愛してもいない男性を父親にする訳にはいかない。

 私が愛しているのは……聡彦ただ一人。
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