シュガーレスキス
「あ……聡彦?」
「インフルだろ、9度はあるな」

 そう言って、彼は1枚しかかけてなかった布団の上に厚手の毛布をかけてくれた。

「早退しろ。アパートまで車で送ってやる」
「え、いいよ。一人で帰れるし……」

 そう言って起き上がろうとするんだけど、体がふわふわして思うように動けない。
 それを強引にベッドに押さえ込んで、聡彦が今まで見せたこともないほど優しい顔をして私を見下ろしていた。

「俺の言う事には絶対服従。……だろ?」

 熱で私の感覚がおかしくなってるんだろうか。
 聡彦が優しい人に見える。
 私が心配でたまらないといった表情に見える。

 願望かな。

 もしかしたら私は聡彦がこういう人だといいなっていう幻を見てるのかな。
 黙ってベッドに押さえつけられたから、私はそのまま目をつむった。
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