シュガーレスキス
 仕事が終わって帰ろうとした俺を探して、営業の如月さんが顔を出した。
 いつもは半分ふざけた顔をしている彼が、ものすごく深刻な顔をして「外で話したい」と言った。

「今……何て言いました?」

 営業車の停めてある駐車場で、俺は耳を疑いたくなる言葉を聞いた。

「後藤さんが、あなたの子供を身ごもってるんです。その事実をあなたに告げられなくて、随分悩んでいて……それで今日流産の危機があって、今入院してます」

「入院?流産?」

 驚きを隠せず、俺は軽く足元がふらついた。

「彼女は大丈夫なんですか?」
「ええ。子供も奇跡的に無事で。相当悩んでましたが、とうとう彼女はあなたとの子を一人で産むと言いました」

 俺の……子供?

 付き合ってた事すら漠然としてるのに、唐突に生々しい事実を告げられ、俺はショックを隠せなかった。

「女性が子供を一人で育てるには、この世はあまりに過酷でしょう。だから、舘さんがこの事実を受け入れないなら、俺は何がなんでも彼女を手に入れるつもりなんですが」

 如月さんは全く冗談抜きの真顔でそう言った。
 後藤さんとの間に子供が出来ていた事も驚きだったけれど、俺との子供だと分かっているのに彼女を受け入れようとしている如月さんの言葉にも驚いた。

「どうしますか。受け入れるなら、今から病院へ案内しますけど」

 まるで仇でも見るような鋭い目で見られ、彼が俺に対して軽く憎しみを持っているのが分かった。

 俺は一つ呼吸を整えて、返事をするまで数秒黙った。
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