シュガーレスキス
 沙紀が薬を買ってきてくれたんだけど、聡彦がインフルに風邪薬は効かないと言って薬代を沙紀に返している様子がぼんやり見えた。

「タミフルもらわないと駄目だから、病院も寄る」

 そう言って、私は聡彦の背中に乗せられた。

「菜恵、午前中に帰ってもらえば良かったね。ごめんね。舘さん、よろしくお願いします」
「ああ」

 私は職場の制服を着たまま聡彦に背負われ、社用車の後部座席に寝かされた。
 荷物なんかは沙紀がまとめてくれていて、一応着替えもその中に入ってたけど、どうにも服を着替える力も残ってなかった。

 病院でどうにか薬をゲットし、奇跡的に綺麗に片付いていた部屋に私は聡彦を初めて入れた。
 入れたっていうより、聡彦が勝手に入って来たって言った方がいいのかな。
 部屋のあちこちにハヤトのイラストが飾られてるから、これを見られるのは本当は嫌だったけど、仕方ない。

「菜恵、お前こんな洋風な部屋で布団引いて寝てんの?」

 ワンルームにベッドが無かったから、彼は部屋の隅に詰まれた布団を見てそう言った。

「ん、布団の方が安心する。ベッドって落ちたら痛いじゃん」

 熱にうかされながらも、私は寝言みたいにそんな事を言っていた。
 すると、丁寧に布団を引きながら聡彦は笑っていた。

 ナチュラルな笑顔。
 私がずっと見たかった、自然体の彼が目の前にいた。
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