シュガーレスキス
脱力した状態でフラフラと歩いていると、今まで快晴だった空がにわかに暗くなり、夕立が降りはじめた。
夏の終わりは、こういう雨が降ったり降らなかったりするうちに訪れる。
この夏、俺と菜恵はとんでもない運命のいたずらに翻弄された。

雨が音を立てて降る中、歩調を変えずにそのまま歩いていると、体が思い出を再体験しているような妙な感覚を覚えた。

雨……。

俺はいつだったか、同じように大雨だった日にこうやって立ち尽くして、絶望感の中にいた。
それで、大事な……心から好きな女性を待って、朦朧としていた。

その時のビジョンがフッと思い浮かぶ。

そうだ、あの時俺は菜恵を待っていたんだ。

今みたいに、菜恵を傷つけてしまった事への罪悪感をどう挽回していいものか……と、考えていた気がする。
もう二度と彼女には受け入れてもらえないのか……と。
別の男へ心は移ってしまうのか……と。
情けないほどになす術なく、雨の中、菜恵をひたすら待っていた。

体が覚えていた雨の日の記憶。

ずぶ濡れになった今、ハッキリと思い出した。
自分の傘を投げ出して、濡れている俺に駆け寄ってきてくれた菜恵の姿を。
ひどい言葉で傷つけたのに、無条件にそれを許してくれた彼女のあたたかい手の感触を。
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