シュガーレスキス
 あり得ない。
 あの優しさの塊のような菜恵が、沢村さんに精神的なダメージを与えるような事を言うなんて。

「でも、別にいいんです。こうして一度だけでも舘さんと個人的にお会いできただけで私は満足です」

 沢村さんは菜恵を悪くは言わなかった。
 単純に俺に好意があって、それだけ分かってもらえばいいと……そう言った。

「好意を持ってもらえていたのは正直、ありがたいと思うよ。でも、申し訳ないけど、俺はもう菜恵をパートナーにするって決めてるんだ」

 俺は、淡々と事実だけを伝えた。

「やだ、謝ったりするのおかしいですよ。私は単純に舘さんと一緒に仕事してるのが好きだっただけなんで……寂しいだけです」

 そこまで言って、とうとう彼女はポロッと涙を落とした。

 さすがに、公の場で涙を落とされると俺もそれ以上は何も言えなくなった。

「これからも、仕事の事とか質問していいですか?」

 最後にそう言われたから「それぐらいなら、いつでも」と答えた。
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