シュガーレスキス
「ふーん」

 私の手をつかんで、いきなり体勢をこっちに傾けてくる聡彦。

「な、何?」
「子供はこんなキスできないだろ?」

 そう言って、聡彦は強烈な“大人キス”をしてきた。
 こうやって、私の言葉にいちいち反応してるのが子供だって言ってるのに!

 職場で切れ味のいい社員をやってるんだろうけど、”オフではこんな感じなんですよ!”って公開してあげたい気分になる。

「職場の人が見たら仰天するね」
「ああ。見られたら俺は即日辞表出すから」

 真顔でそんな事を言う。
 それで、確かにこれを見られたら辞職だねっていうぐらい甘えた顔で私のお腹に顔を当てる。

「この中に命が一つ宿ってるのか……不思議だな」

 赤ちゃんの話になると、彼は人が変わったように優しくなる。
 生まれたら「ツン」が完全消滅して、「デレデレ」になるのかな。

「そうだね。まだ全然お腹も出てこないから余計不思議だよね」

 私はぺたんこのお腹をさすって、自分の体の中で起こっている事を想像して不思議な気分になった。
 つい数ヶ月前には存在しなかった命が、今私のお腹にいる。
 来年の今頃には隣で手足を動かす赤ちゃんとして存在してるんだな。

 本当に不思議だなあ……。
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