シュガーレスキス
「菜恵」

 聡彦が顔を起こして、私をじっと見た。

「何?」
「この命を、俺が居なくても守ろうとしてくれた事……俺、一生忘れないよ。ありがとう」

 聡彦の目に……涙が浮かんでいた。

「どうしたの今更そんな事言って。私だって……泣けてきちゃうじゃん」

 やっと私は一人じゃなくて、聡彦と二人でこの子を育てていけるんだという実感が沸いてきた。
 そしたら、自然に嬉しさと安堵感で涙がこぼれる。

 今まで流した涙とは全く違う。
 深い愛情が触れ合った事で心が震えた涙だ。

「聡彦に出会って良かった。あなたの不思議な愛情表現を理解できて良かった」
「何だよそれ」

 涙をこぼす私の頬を拭ってくれながら、聡彦がそう言って笑う。

「私ね、聡彦の子供だったら……絶対愛しいだろうなって思ったんだ。流産しかけた時、あなたに似た瞳で私を見上げる小さな子供が思い浮かんだの。それで、この子が必死で生きようとしてくれたから……一緒に生きてみたいと思った」

 本当に、あの出血の中で必死に留まってくれたのはこの子が「生まれてきたい」という強い意志を持っていた証拠だと思っている。

 どうしようって悩んでばかりだったのに、「この子となら二人でも頑張れるかもしれない」という勇気を与えてくれた。
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