シュガーレスキス
 猛烈な嫉妬のエネルギー。
 好きな人を失うのは確かにつらい。
 でも、その好きな人が別の人と幸せになるのを、見えない場所で涙を流しながらも最終的には応援してあげるのが本当のプライドある人間の姿なのではないだろうか。

 こんな理屈、沢村さんには通じないんだろう。
 もう彼女の中では私の事は「敵」としてインプットされていて、そのポジションはどう頑張っても変えられそうもない。

 不思議と腹が立ったりはしなかったし、この人から「ひどい事言ってごめんなさい」というような言葉を期待する気にもならなかった。

 ただ将来、沢村さんが愛する人との間に子供が出来たら。
 その時は多少私の気持ちを分かってくれるんだろうか。
 いや、そんな事も期待してはいけないわね。

「私。舘さんが結婚しようと子供がいようと、多分彼を好きなままだと思います。彼にこれ以上嫌われたくないので、好きになって欲しいなんて事は二度と言いませんけど」

 そう言い残し、沢村さんは私の目をちゃんと見ないまま走って行ってしまった。

 私が走れない体だという事も、あの人はあまり分かって無い気がする。
 好きな人を奪う大嫌いな女と口を利いて不愉快だ……という事しか彼女からは伝わってこなかった。
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