シュガーレスキス
 私はものすごい虚無感に襲われ、持ってきた沢村さんが書いた聡彦へのラブレターを細かく破いてコンビニに設置されたゴミ箱に捨てた。

 私にだって黒い部分はある。

 それが引き出されるほどの事態が今まで無かっただけで。
 そういう意味では、私は出会う人間に恵まれて来たという事なのかもしれない。
 沢村さんに対しては、全く正の気持ちは持て無い。
 歩み寄ろうとか、分かり合おうとか……そういう気分にすらならない。

 この世には、頑張っても分かり合えない人間がいるのだという事を知った。
 同じ人間で、ほとんど変わらない環境で育った日本人なのに、言葉がかみ合わない。
 ああいう人もいるんだな……という不思議な感覚と供に、沢村さんの事は私の中で”分かり合えない人”として処理されようとしている。


 来た道を引き返しながら、一度聡彦と沢村さんとの事はちゃんと話した方がいいような気がしていた。
 お互い嫌な気分になるのを避けるようにあの人の事は話題に出さなかったけれど、沢村さんの性格ならきっとこの先も聡彦への気持ちをあっさり諦めるような事は無いような気がしたから、私達の間で彼女への気持ちをちゃんと確認したいと思った。

 着てきたコートの隙間から秋の風が入ってきて、少し体が冷えてしまった。
 早く帰って、暖かいお茶でも飲もう。

 そう思ってアパートまで帰りついたはいいけれど、久しぶりに多く歩いたのと精神的にやや負荷がかかったせいなのかお腹が少し痛い気がした。
 もう今日は無理に立ち歩かない方がいいのかも……。
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