シュガーレスキス
 アパートに戻り、ぽこんとお腹が出てきた菜恵が笑顔で玄関に出てきた。

「おかえり!今日ね、胎動っぽいのが感じられたんだよねー。何か活発だから、聡彦の血が濃いのかも。男の子かな」

 そんな報告を嬉しそうにしてくれて、俺が戻るのを予想して鍋を暖めてくれたりしていた。

「菜恵……」

 キッチンでおかずの追加をしようとしている菜恵を後ろから抱きしめる。
 俺が好きになった……心から愛した女性は、心の綺麗な可愛い人だ。
 彼女を探していたわけでもなかったのに、菜恵は知らず知らず俺の中には無くてはならない女性になっていた。

 菜恵のような女性には、きっと今後二度と出会えないだろう。

 それを考えると、今までよりもっと、もっと彼女を大事にしなければ……という気持ちでいっぱいになる。

「聡彦、どうしたの。会社で何かあった?」
「いや、何もないよ」

 一応職場で何かあったら報告してと言われていたけれど、今日の沢村さんの事は話す必要が無いだろうと思った。
 沢村さんも、いずれ幸せな恋愛をしてみれば、少しは俺と菜恵の気持ちが理解できるかもしれない。

 でも、もうそこまで彼女の人生を追求する義務も責任も俺には無いと思っていて……リーダーにも、今後沢村さんの問題は俺にふるのは止めて欲しいと伝えた。
 あの子の偏った恋愛観を変えるのは俺では無理だ。
 上司の尻ごみっぷりを見ていると、誰も彼女には深入りしたくないという気配が感じられる。
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