シュガーレスキス
「後藤さん、全然心ここにあらずって感じだね」
「あ、ごめんなさい。ちょっと疲れてるのかな」

 私は慌てて自分の態度の悪さを反省した。
 いくら何でも、自分を好きだと言ってくれている人の前で恋人の事を考えるなんて失礼すぎる。

「僕は全く可能性ないのかな?」

 困った顔でそういう事を言われると、私も苦しい。
 八木さんの性格も、ルックスも、お話も……全部好ましい。
 嫌いな要素なんか何も無いのに、心から求めているのはあの悪魔みたいな性格の悪い聡彦だ。
 八木さんと付き合った方がずっと幸せになれそうなのに、聡彦に感じる惹きつけて離さないという魅力は感じない。

「私、ちょっと趣味がおかしいんです」

 聡彦が聞いたら相当怒りそうだったけど、私はそんなふうに八木さんの好意を受けられない事をそれとなく伝えた。

「……だね。ちょっと趣味悪いね」

 まさか八木さんが聡彦をダイレクトに悪く言うとは思わなかったから、私はビックリした。
 いつもは柔和な笑顔をたたえている彼が、ちょっとクールな顔になっていた。

「舘さんは確かに後藤さんを捕らえるのに十分な魅力があると思うよ。でもね、恋愛ってルール無しなんだよ……今僕と君が一緒にいる事だって法律には触れない。同じように彼が誰か別の女性と会っていてもそれは罪ではないんだよ」

 そう言って、彼は私の後ろに目線を泳がせた。
 私はその視線の方向をゆっくり見た。
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