シュガーレスキス
「聡彦?どうしたの?」

 電話に出た奈恵の声のトーンが低い事にも気づかず俺はいつも通りの冷たい言葉を放った。

「……いや、そろそろ戻ってもいいかなと思って」

 いつもなら当てて「どういう事?」なんて言ってくる彼女が全く動じない。
 それどころか……。

「何が?もう私はふられたと思ったし。だからもう浮気した……じゃあね」

 こんな意味不明な言葉で電話が切れた。

「おい、菜恵!どこにいるんだ。菜恵!」

 必死でコールし続けたけど、もう菜恵は電話に出なかった。

 浮気した……?
 誰と……?八木か?

 俺の頭の中がパニックになった。
 自業自得と言われればそれまでだけれど……菜恵の体に指一本でも触れていたら、俺は八木を間違いなく殴る。

 それぐらいの危機感で、俺はタクシーに飛び乗って菜恵のアパートに向かった。
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