シュガーレスキス
 八木さんはアルコールでフラフラの私を心配してアパートまで連れ帰ってくれた。

「大丈夫?ちゃんと自分でコントロールしないとお酒は危ないんだから」
「平気です。あ、どうぞ上がってくださいよ。お茶でも飲みませんか」

 私は聡彦が絶対俺以外の男は入れるなと言っていた自分の部屋に、八木さんを入れた。
 電話で急に「戻ってやってもいい」みたいな言い方してて、私がどれだけ彼に振り回されているのか分かってないみたいだったから言ってやった。

「浮気したから」

 これは聡彦を殺すには十分なセリフだったかもしれない。
 ルール違反どころではなくて、もう死刑宣告みたいなものだ。

 実際、今私は八木さんを部屋に入れてるし……彼の出方によってはどうなるか分からない状態だ。
 でも、八木さんは紳士だし。そんな変な事はしてこないだろう……と、安心していた。

「紅茶がいいですか?それともコーヒーにします?」
「いらないよ。後藤さん以外何もいらない」

 そう言って、八木さんはスーツのジャケットを脱いでネクタイを外し、首元のボタンを二つ外した。

「……暑いですか?」

 彼の言葉と態度がいつもと違う事に気付いて、ちょっと怖くなった。
 もう秋だし、服を脱ぎたくなるほど部屋が暑いとは思えない。
 酔った頭が少しクリアになってきた。
< 90 / 281 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop