あの夏の季節が僕に未来をくれた
(これじゃ、まったく俺自身じゃないか!)


兄貴に成り済まして話をするつもりだった俺は、母と久しぶりに会話できた喜びで、すっかりそれを忘れていた。


紅茶から口を離して恐る恐る母を窺うと、母は特に気にするでもなく、自分のマグカップに口をつけている。


そう……だよな?


まさか兄貴の体を借りて俺が話してるなんて思うわけないか。


ホッとしたような寂しいような複雑な気持ちを押し込めて、今度はなるべく兄貴に近い話し方を心がける。


「それで、進路のことなんだけど……」


さっきまでと違い、わざとぶっきらぼうにそう言った。


「進路、どうするか決めたの?

ごめんね?もうそんな時期だって気付かなくて……

何でも言って?

どんな進路になっても、お父さんもお母さんも、あなたを応援するつもりだから」


俺の目を……いや、兄貴の目を真っ直ぐに見つめてそう言った母からは、強い意思のようなものが見えた。


きっと父をも説得するつもりで言ってくれてるのだろう。


どんな道を選んだとしても、私たちはあなたを応援する。


そんな力強い言葉だった。


< 100 / 248 >

この作品をシェア

pagetop