あの夏の季節が僕に未来をくれた
「――ッ!」


驚いた声を出しそうになって、直前でそれを呑み込む。


ギクリとした。


まさか……母にはわかるのだろうか?


動揺を悟られないよう、ゆっくりと立ち上がる。


そのままキッチンまで歩いていくとカップを流しにそっと置いた。


それからゆっくり振り向くと、母の目をしっかり見据えて答える。


「何言ってんだよ?

雅紀に決まってんだろ?

じゃあ進路のこと、また相談すると思うけどよろしく

ふあぁ……俺もう寝るわ……お休み」


そう言ってリビングのドアに手をかけると、あくびをするフリをして慌てて自分の部屋へと戻っていった。


母のまだ訝しげな顔を見ないようにしないと、本当のことを言ってしまいそうだったから。


母さん、俺だよって……


そんなことは許されない。


それじゃあ、ますます兄貴を追い詰める。


俺の存在がまだあることが、母たちに知られてしまえば、きっと俺を思い出にすることが出来ないと思うから……


後ろから何か声をかけられた気がしたけど、俺はそれを振り切って兄貴の部屋へと急いだ。


体があるというのは便利なようで不便だ。


泣いてしまいそうになるのを堪えて、ベッドに横たわると、俺はそっと兄貴の体から抜け出した。

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