あの夏の季節が僕に未来をくれた
なぜなのかわからないけど、その上でうまく兄貴から進路と父の話を引き出してくれた。


俺にとっては好都合だったけれど、なぜ佐伯は黙っていたんだろう?


あの時の……初めて佐伯と言葉を交わした日のことを、覚えていないと落ち込む兄貴を見ているからなんだろうか?


また覚えていないかもしれないことで、兄貴を悩ます必要はないと。


もしそうなら佐伯は俺が見込んだ以上の男かもしれない。


こいつを選んだのは、間違いじゃなかったんだと、嬉しくもあった。


佐伯の家に遊びにいくようになって、兄貴は確実に変わっていった。


佐伯の家の暖かさに、兄貴も包まれているかのようだったから。


佐伯の家は妹と両親の四人家族で。


絵に描いたような仲のいい家族だった。


幼い頃、病気がちだった佐伯だけに、両親は殊更甘かったみたいだ。


そこはうちも似たようなものだったから、自分自身と重なる部分もあった。


だけどこの家の違うところは妹もものすごく可愛がられていることだ。


だから兄が病気だからって、嫉妬も卑屈さも生まれない。


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