あの夏の季節が僕に未来をくれた
きっと、弟の思い出話で盛り上がったり、懐かしんだり出来るということは。


弟がもう過去の人として消化できているってことになるんだろう。


だけどそれが未だに出来ない俺と父さんは、まだそれが出来てないってことだ。


母さんの中ではとっくに吹っ切れているんだろうに。


いつまでも男どもがうじうじ悩んでるのがわかってるから。


だから母さんも敢えて弟のことを口にしないんだと俺は思っていた。


悲しみが深いのはみんな一緒のはずなのに……


俺と父さんはそれだけじゃない何かを抱えて、弟の死に向き合えないでいるなんて。


そんなある日のこと、母がおかしなことを言った。


それは夕飯も済んで、まだ父が帰っていなかった時の話だ。


母と二人でリビングで寛いでいた時。


ふいに母が言った。


「お茶でも淹れよっか?」


俺はそんなにいつまでもリビングで寛いでることなんかなくて。


どちらかというと、弟の方がよくお茶を飲みながら母と雑談していたような気がする。


俺はそんな二人の様子を見ながら、子供だななんて。


いつまでも母にくっついてる弟を鼻で笑っているような子供だった。


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