あの夏の季節が僕に未来をくれた
だから母にお茶を淹れるって言われて、何となく不思議な気持ちになった。


こんな風に弟は母とお茶を飲みながら話をしていたんだな、なんて。


弟の経験を疑似体験しているかのような、そんな変な気分になったんだ。


俺がキョトンとしている間にも、母は手際よくお茶を淹れて戻ってきた。


「はい、いつものね?」


母はそう言ってテーブルにカップを置いたけど。

いつもの、の意味がわからなくて、恐る恐るカップを手に取った。


香りを嗅ぐと、どうやらそれは紅茶に生姜が入っているらしい。


「いつものって……

俺、これいっつも飲んでたっけ?」


どうしてもそんな記憶がなくて、思わず母にそう聞いた。


一瞬……


ほんとに一瞬だけ、母の顔が強張ったような気がした。


でもすぐにいつもの顔に戻って、俺を見る。


それから肩を竦めながら、少しおどけたように言った。


「ごめん!いっつもお母さんが飲んでるものだから、ついつい雅紀も飲んでると思い込んでたわ

そうよね?雅紀と一緒にお茶を飲むなんて珍しいものね?

ジンジャーティーなんだけど、どうかしら?

口に合えばいんだけど……」


俺に言葉を挟ませないような勢いで一気に捲し立てると、母は少しだけ悲しそうな顔をした。


< 140 / 248 >

この作品をシェア

pagetop