あの夏の季節が僕に未来をくれた
だから俺は急いでそれを飲もうとして、火傷しそうになったんだ。


「熱っ!」


慌ててカップを離す。


母はそんな俺を見ながら、ごめんねって一言呟いた。


何で謝ってるのかがわからずに、首を傾げながら母を見る。


すると母は困ったように笑って。


「雅紀は猫舌だったわよね?

ごめんなさい、気づかなくて……」


それはどういう意味なんだろう?


「雅紀は」って母は言った。


てことは弟は違うってことになるのかな?


そんな意味はなかったのかもしれない。


だって母は一度だって弟の名前を口にしてる訳じゃないんだから。


だけど、いろんな言葉の端々に、弟と比べてるんだろうニュアンスが含まれているような気がした。


だからといって、前みたいにはもう卑屈にはならなかったけれど。


母が寂しそうな顔をするのを目の当たりにすると、胸がチクリと傷んだ。


だけど必死に俺にそれを気づかせないようにしている姿が痛々しくて。


だったら俺も気付かないふりをしてあげることが親孝行なのかななんて。


そう思えたことが何かを克服したような気分になって少しだけ誇らしかった。



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